建設工事や設備管理において、完成図書は必ず保管する必要がある文書です。しかし、完成図書は次々と作成され、過去の完成図書のボリュームは日々増え続ける一方です。そこで、ITを活用した完成図書管理の上手な方法をご紹介いたします。
完成図書とは?
完成図書とは、建設関係の工事で発生した図面や文書を納品物として整理したものです。建設工事1件の完成図書はキングファイル1冊~数冊のボリュームにもなります。
さらに建設物は竣工後30〜50年の長期間、利用されます。よって建設工事を請負った企業は、竣工時の情報から長年発生する改修工事やメンテナンスの情報を工事件数×30~50年間、完成図書として保管する必要があります。
完成図書の内容は、工事図面、指示書、仕様書、構造計算書など多岐にわたります。近年では電子納品が主流となり、電子データでの保管も容易に可能になってきました。
しかし数十年前までの完成図書は紙納品が主流だった為、完成図書の保管スペースが膨大に必要でした。さらに紙資料を電子化する場合、電子化作業費用が膨大に必要になる点が、頭を悩ませている問題のひとつとなっています。
なぜ完成図書を管理しないといけないか?
完成図書の保管義務化
過去に起きた構造計算書偽装問題がきっかけとなり、完成図書の保管が義務付けされました。義務化は、建築三法(「建築基準法」「建築士法」「建設業法」)によって記載されています。その内容は以下の通りです。
【建築基準法】
- 保存期間:永年/15年
- 対象:特定行政庁、指定確認検査機関、指定構造計算適合性判定機関
- 保管対象
15年保存:確認申請書・中間検査申請書・完了検査申請書・定期検査報告書・構造計算書
永年保存:建築物等の台帳・建築計画概要書・定期調査報告・概要書・処分概要書等(建築物が滅失されるまで永久保存)
【建築士法】
- 保存期間:15年
- 対象:建築士事務所
- 保管対象
①設計図書・工事監理報告書:15年
1) 配置図・各階平面図・2面以上の立面図・断面図
2) 基礎伏図・各階床伏図・小屋伏図・構造詳細図・構造計算書
②帳簿:15年
【建設業法】
- 保存期間:10年
- 対象:建設業者
- 保管対象
営業に関する「図書」は10年
①完成図(竣工図) ② 発注者との打合せ記録 ③ 施工体系図
営業に関する「帳簿」は5年(住宅は10年)
施設運用で日々発生する改修工事
施設工事が完了後、竣工されたときに最初の完成図書が作成されます。この第1版の完成図書はすべてが揃った状態で作成され、最新情報を簡単に把握することが可能です。
ただし、竣工後に追加・改修工事が発生すると話が変わってきます。追加・改修工事では、工事の変更箇所に関わる部分のみの完成図書が第2版として作成されます。最新情報は第1版と第2版の2つの資料を比較しないと、最新の状況を把握することができません。
この後、改修工事が増えれば増えるほど、完成図書も増え続け、現在の最新状態を把握するには以下の流れで探すことになります。
- 最新の完成図書に知りたい情報があるか確認する
- 知りたい情報がない場合は、一つ前の完成図書を確認する
- 把握したい範囲の情報が見つかるまで上記①②を繰り返して調べる
以上のように、最新版情報を把握するには、施設の完成図書を全て保管しておく必要があります。
完成図書に記載されている情報
完成図書には、そのタイミングで存在した各種施設情報が格納されています。特に図面の場合、埋設物・配管設備(水道、ガス)・電気配線などがどのように存在しているか記載されています。図面が無ければ実際の設備をその都度壊して実物で確認し、終了後は補修するといった作業が必要になり、コストも掛かります。
見えない情報も把握できる完成図書の情報は、現状把握には大事な情報源となります。しかし工事現場は掛け持ちで担当している人が多いのが現状です。業務が多忙な中で漏れなく完成図書の内容を最新情報に保持することは、難しいケースが多いのも事実です。
その結果、次回工事の時に完成図書と実物の状態が違うことが判明し、工事の中断・計画外の追加原価が発生するなどのトラブルが発生するケースがあります。しっかりとした完成図書管理が必要となります。
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完成図書管理にITを利用するメリット
完成図書をIT化するメリット
完成図書管理にITを利用すると以下のメリットがあります。
- 大量の紙資料の保管スペースが不要になる
- 資料の閲覧や内容の確認を自分が利用しているPCから行える
IT情報は、管理台帳による管理でも実現できますが、大量のファイルを管理するには図面管理システムなどのシステム利用が有効です。
図面管理システムを活用することで、完成図書の最新版管理が容易に実現可能となります。また完成図書の作成元ファイルも併せて管理できますので、過去の作成元ファイルを利用して、改修工事の指示書作成や改修設計作業など、業務効率が格段にアップします。
DXへの取り組みにIT利用は必須
近年、業種に関わらず前向きにDX導入を検討している企業が増えてきております。
DX導入にはIT利用が必要不可欠であり、紙資料を電子で運用するには以下の要件を満たす必要があります。
●建設業DX導入の要件①:見読性
・数十年後でもPCで図面・帳簿を閲覧・印刷ができること
→アプリケーションファイルの保管ではNG=理想:TIFF or PDF
・TIFF or PDFファイルはISOでフォーマットが公開されている
→長期保存用PDF(PDF/A)も規定されている
●建設業DX導入の要件②:証拠能力の判断と責任
訴訟時に資料が改ざんされてないことを企業の責任において証明できる仕組みが必要(タイムスタンプ、電子署名など)
完成図書管理にITを利用する場合の注意点
大量にある完成図書を単に電子化しただけでは実運用で目的のファイルが探せない(検索性の)問題が発生します。例えば以下のような感じです。
- フォルダによる仕分けをしても、、、
毎回、フォルダをトップからいちいち開いて目的のファイルを探す必要があります。
また、複数フォルダに存在する同一資料を一度に確認することができません。
- ファイル名で検索しようとしても、、、
PCのフォルダ階層に数十万のファイルが存在する場合、検索レスポンスの問題が発生します。
完成図書管理に役立つツールをご紹介
完成図書の電子化で有効なAI-OCR
ここ十数年の完成図書はすでに電子化している企業がほとんどです。ただ、電子化以前の紙資料も大量に存在することも事実です。このテレワーク時代に「紙資料を確認するために出社」しない取り組みとして、AI-OCRを利用した電子化があります。属性情報の半自動入力が可能なため、電子化の取り組みにAI-OCRの活用が盛んになってきています。
電子データは簡単に不正が可能
電子データは、簡単に改ざん、不正コピーが可能なので、運用時に以下の点を考慮する必要があります。
- 要件1:ログ管理
・ログ情報による改ざん履歴管理
・システム管理者ログの保管と管理者以外のログ監査 - 要件2:タイムスタンプ
・存在証明と改ざんされていないかを法的に証明可能
・PDFファイルであればタイムスタンプをファイル内に埋め込むことが可能
・タイムスタンプ有効期限=10年(10年毎に再度付与する必要あり)
属性管理による管理・検索機能の必要性
Windowsなどのフォルダ管理では、検索性の問題は「管理台帳」により目的の資料を探す事はできるでしょう。しかし、図面管理システムを活用すれば、ファイルに付与している属性情報から様々な検索(属性検索、串刺し検索等)が可能になりますので、更に柔軟な探し方ができます。
また、タイムスタンプに対応している図面管理・文書管理システムも増えてきており、将来大量に増える完成図書ファイルの運用の大きな手助けとなります。
有効期限・保存期限管理の重要性
完成図書を電子ファイルで保存する際に、長期保存に対応したフォーマットで保管することも重要です。加えて「期限管理」を行うことでさらに以下の効果があります。
- 次回改修工事タイミングの把握
=計画的な改修工事の実現による維持コストの平準化を実現できる - 契約関係の更新タイミングの把握
- 10年以上保存が必要な文書に対するタイムスタンプ更新
タイムスタンプは有効期限が10年のため、10年以内に再度タイムスタンプを付与する必要がある
まとめ
完成図書は、「施設数×工事数」のボリュームでどんどん増え続けます。ただ、施設運用では年間の維持コストを平準化することで安定経営ができます。これを実現するには、設備の次回改修工事タイミングを予測する必要があり、予測には工事の履歴管理と内容を把握できる完成図書は最も重要な情報となります。
よって、完成図書を電子保管することが有効な手段となりますが、IT情報は便利に利用できる分、情報漏洩や不正な改ざんも可能なため、法的要件も厳しくなる一方です。 弊社は図面管理システムによるデジタルデータの活用と業務改善へ取り組む企業をこれからも応援し続けてまいります。何かお悩みのことがあればお気軽にお申し付けください。
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